◆ 用〈素材〉
草、木、花、土…。自然が生み出した素材を日本人はさまざまな方法で活かし、慈しんできました。 たとえば藁であれば、衣服となり、家となり、そして燃えて暖となり、人々の暮らしに息づいてきました。 このように、日本人は素材をあらゆるものに活かす智恵で、豊かな暮らしを築いてきたのです。 現代は「使い捨て」や「新品」を好み、活かすことをせずに耐久性や高性能を追究してきました。 しかし本来の日本人としての叡智を復興させ、素材を活かす素晴らしさを学ぶことができれば、 日本はもっと豊かな心を育むことができます。

◆ 天〈気候〉
日本らしさといえば、四季が挙げられます。日本の衣食住は、その春夏秋冬が織り成す気候を活かすことで 豊かに醸成されました。夏の「絽の着物」や冬の「丹前」、日本料理の「走り」や「名残」、 建具の「障子」や「ふすま」など、いつも気候を感じて生きることで、日本の情緒は育まれてきました。 しかし暖房器具や冷房などで均一な環境が保たれるようになり、 現代は季節感がずいぶん希薄になってきています。 つまりこれは、豊かな社会になったかのように見えて、真の豊かさを失っていっているということです。

◆ 人〈技能〉
文明が生まれるまでは、人は自分の体を駆使するしか生きる術がありませんでした。 畑を耕す。道具を作る。家を建てる。芸をする。 あたりまえのように体を活かして技を磨くことによって、今の日本文化は育まれてきたのです。 便利で快適になった現代では、体を活かす必要性がどんどん失われ、 そこから生まれた優れた日本の技を受け継ぐ人が次々と失われつつあります。 資源などに頼ることのできない日本では、体を活かすことを忘れるということはすなわち 日本を失うということに他なりません。

◆ 時〈時間〉
各地に必ず土地神さまがいたように、日本人はずっと土地を畏れ、大切に扱ってきました。 方位を調べたり、結界を張ったり、祓って鎮めたり。より快適に、より安全に過ごせるよう、 土地を活かすさまざまな方法が日本には培われてきました。 それらは、太陽の動きや山川の存在など、大いなる自然環境のなかに生きる人間として必然のことでした。 住環境が大きく変化し、いにしえの叡智が忘れ去られようとしていますが、 森羅万象とともに生きる生き物として、こうした土地を活かす智恵を決して失ってはいけません。 

◆ 地〈風土〉
日本には、時の流れを上手に活かす文化がありました。 それは移りゆく時、枯れゆく様を「あはれ」と愛おしく思う気持ちです。 一度きりの出逢いであっても、一生の相手とできる美しい縁。そして時を経たものに対する尊敬の念。 回数や長さといった尺度では量れない絶対の審美眼で、一瞬一瞬を活かしていたのです。 流れ過ぎる時を大切にする慈愛の気持ちは、骨董や盆栽のような美しい文化も育んできました。